高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島を申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼び出されて、そこで暇乞いをすることを許された。それから罪人は高瀬舟に載せられて、大阪へ回されることであった。それを護送するのは、京都町奉行の配下にいる同心で、この同心は罪人の親類の中で、おも立った一人を大阪まで同船させることを許す慣例であった。これは上へ通った事ではないが、いわゆる大目に見るのであった、黙許であった。
2:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:39:49.33ID:R945h3A30
…ぷゆゆ
3:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:39:52.37ID:L9bdOfAz0
当時遠島を申し渡された罪人は、もちろん重い科を犯したものと認められた人ではあるが、決して盗みをするために、人を殺し火を放ったというような、獰悪な人物が多数を占めていたわけではない。高瀬舟に乗る罪人の過半は、いわゆる心得違いのために、思わぬ科を犯した人であった。有りふれた例をあげてみれば、当時相対死と言った情死をはかって、相手の女を殺して、自分だけ生き残った男というような類である。
4:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:39:56.56ID:49BqIr7t0
うんこもりもり森鴎外
5:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:40:48.75ID:L9bdOfAz0
そういう罪人を載せて、入相の鐘の鳴るころにこぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を両岸に見つつ、東へ走って、加茂川を横ぎって下るのであった。この舟の中で、罪人とその親類の者とは夜どおし身の上を語り合う。いつもいつも悔やんでも返らぬ繰り言である。護送の役をする同心は、そばでそれを聞いて、罪人を出した親戚眷族の悲惨な境遇を細かに知ることができた。所詮町奉行の白州で、表向きの口供を聞いたり、役所の机の上で、口書を読んだりする役人の夢にもうかがうことのできぬ境遇である。
6:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:41:13.68ID:L9bdOfAz0
同心を勤める人にも、いろいろの性質があるから、この時ただうるさいと思って、耳をおおいたく思う冷淡な同心があるかと思えば、またしみじみと人の哀れを身に引き受けて、役がらゆえ気色には見せぬながら、無言のうちにひそかに胸を痛める同心もあった。場合によって非常に悲惨な境遇に陥った罪人とその親類とを、特に心弱い、涙もろい同心が宰領してゆくことになると、その同心は不覚の涙を禁じ得ぬのであった。 そこで高瀬舟の護送は、町奉行所の同心仲間で不快な職務としてきらわれていた。
7:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:41:15.46ID:ydvEvsp50
山月記を裏切るな
9:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:41:38.28ID:L9bdOfAz0
>>7
山月記を読み返すのは明け方や
11:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:42:10.08ID:bNfRGlHia
ヰタ・セクスアリスもハラ
37:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:49:53.21ID:MRfHymvhr
>>11
しょうもね
12:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:42:15.49ID:L9bdOfAz0
いつのころであったか。たぶん江戸で白河楽翁侯が政柄を執っていた寛政のころででもあっただろう。智恩院の桜が入相の鐘に散る春の夕べに、これまで類のない、珍しい罪人が高瀬舟に載せられた。 それは名を喜助と言って、三十歳ばかりになる、住所不定の男である。もとより牢屋敷に呼び出されるような親類はないので、舟にもただ一人で乗った。
13:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:43:03.87ID:L9bdOfAz0
護送を命ぜられて、いっしょに舟に乗り込んだ同心羽田庄兵衛は、ただ喜助が弟殺しの罪人だということだけを聞いていた。さて牢屋敷から棧橋まで連れて来る間、この瘦肉の、色の青白い喜助の様子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬って、何事につけても逆らわぬようにしている。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるような、温順を装って権勢に媚びる態度ではない。
14:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:43:10.15ID:XSxIfVwr0
これって安楽死させた話しやっけ?
15:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:43:11.65ID:ZzoETVjAp
これいつの話?
18:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:44:09.49ID:XFW3xtY+0
>>15
たしか去年の10月頃や
間違ってたらごめんやで
16:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:43:35.09ID:sLHequlg0
キスケェ
20:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:44:46.75ID:L9bdOfAz0
庄兵衛は不思議に思った。そして舟に乗ってからも、単に役目の表で見張っているばかりでなく、絶えず喜助の挙動に、細かい注意をしていた。 その日は暮れ方から風がやんで、空一面をおおった薄い雲が、月の輪郭をかすませ、ようよう近寄って来る夏の温かさが、両岸の土からも、川床の土からも、もやになって立ちのぼるかと思われる夜であった。下京の町を離れて、加茂川を横ぎったころからは、あたりがひっそりとして、ただ舳にさかれる水のささやきを聞くのみである。 夜舟
21:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:44:47.64ID:PgHS6ApL0
サンガツ
22:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:45:19.68ID:QGTniXcg0
高瀬舟Kindleで0円で草
23:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:45:23.18ID:3+gp1Lmw0
青空文庫でも読めるが、横書きだとなんか違和感がある。
24:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:45:37.83ID:uqPGN0RU0
続けろ
25:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:45:39.72ID:hdCRKAAv0
著作権ないしええよな
26:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:45:52.74ID:L9bdOfAz0
夜舟で寝ることは、罪人にも許されているのに、喜助は横になろうともせず、雲の濃淡に従って、光の増したり減じたりする月を仰いで、黙っている。その額は晴れやかで目にはかすかなかがやきがある。 庄兵衛はまともには見ていぬが、始終喜助の顔から目を離さずにいる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返している。それは喜助の顔が縦から見ても、横から見ても、いかにも楽しそうで、もし役人に対する気がねがなかったなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌い出すとかしそうに思われたからである。
28:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:46:28.46ID:PgHS6ApL0
弟安楽死させるやつやっけ
31:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:47:16.42ID:L9bdOfAz0
庄兵衛は心の内に思った。これまでこの高瀬舟の宰領をしたことは幾たびだか知れない。しかし載せてゆく罪人は、いつもほとんど同じように、目も当てられぬ気の毒な様子をしていた。それにこの男はどうしたのだろう。遊山船にでも乗ったような顔をしている。罪は弟を殺したのだそうだが、よしやその弟が悪いやつで、それをどんなゆきがかりになって殺したにせよ、人の情としていい心持ちはせぬはずである
33:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:47:49.67ID:L9bdOfAz0
この色の青いやせ男が、その人の情というものが全く欠けているほどの、世にもまれな悪人であろうか。どうもそうは思われない。ひょっと気でも狂っているのではあるまいか。いやいや。それにしては何一つつじつまの合わぬことばや挙動がない。この男はどうしたのだろう。庄兵衛がためには喜助の態度が考えれば考えるほどわからなくなるのである。
34:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:48:42.28ID:L9bdOfAz0
しばらくして、庄兵衛はこらえ切れなくなって呼びかけた。「喜助。お前何を思っているのか。」 「はい」と言ってあたりを見回した喜助は、何事をかお役人に見とがめられたのではないかと気づかうらしく、居ずまいを直して庄兵衛の気色を伺った。
35:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:48:45.07ID:uqPGN0RU0
ブラウザで青空文庫開いて丸コピするだけだろ はよしろ
39:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:50:40.03ID:L9bdOfAz0
>>35
読みながらやってるから遅くなるのはしゃーない
38:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:50:03.84ID:L9bdOfAz0
庄兵衛は自分が突然問いを発した動機を明かして、役目を離れた応対を求める言いわけをしなくてはならぬように感じた。そこでこう言った。「いや。別にわけがあって聞いたのではない。実はな、おれはさっきからお前の島へゆく心持ちが聞いてみたかったのだ。
40:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:51:22.95ID:L9bdOfAz0
おれはこれまでこの舟でおおぜいの人を島へ送った。それはずいぶんいろいろな身の上の人だったが、どれもどれも島へゆくのを悲しがって、見送りに来て、いっしょに舟に乗る親類のものと、夜どおし泣くにきまっていた。それにお前の様子を見れば、どうも島へゆくのを苦にしてはいないようだ。いったいお前はどう思っているのだい。」
41:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:51:43.69ID:mUqs7inAd
弟殺した兄の話やっけ?
42:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:52:32.66ID:L9bdOfAz0
喜助はにっこり笑った。「御親切におっしゃってくだすって、ありがとうございます。なるほど島へゆくということは、ほかの人には悲しい事でございましょう。その心持ちはわたくしにも思いやってみることができます。しかしそれは世間でらくをしていた人だからでございます。京都は結構な土地ではございますが、その結構な土地で、これまでわたくしのいたして参ったような苦しみは、どこへ参ってもなかろうと存じます。
43:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:52:38.08ID:CJjnnXQO0
途中で落ちるだろうから読みたくない
44:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:53:14.56ID:Pa/Je1IF0
はよ
45:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:53:15.41ID:fvEGtL/H0
喉切ってからの呼吸音未だに思い出すわ
46:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:53:30.39ID:L9bdOfAz0
お上のお慈悲で、命を助けて島へやってくださいます。島はよしやつらい所でも、鬼のすむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこといって自分のいていい所というものがございませんでした。こん度お上で島にいろとおっしゃってくださいます。そのいろとおっしゃる所に落ち着いていることができますのが、まず何よりもありがたい事でございます。
47:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:53:31.25ID:/irta3qs0
京都一時期住んでたけど高瀬川めっちゃ狭くて草だった
ヌートリア居るし
48:なんJゴッドがお送りします2020/08/20(木) 20:54:32.94ID:L9bdOfAz0
それにわたくしはこんなにかよわいからだではございますが、ついぞ病気をいたしたことはございませんから、島へ行ってから、どんなつらい仕事をしたって、からだを痛めるようなことはあるまいと存じます。それからこん度島へおやりくださるにつきまして、二百文の鳥目をいただきました。それをここに持っております。」こう言いかけて、喜助は胸に手を当てた。遠島を仰せつけられるものには、鳥目二百銅をつかわすというのは、当時の掟であった。
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